建国記念の日に関する声明





 日本歴史学協会は、一九五二(昭和二十七)年一月二十五日、「紀元節復活に関する意見」を採択して以来、 「紀元節」を復活しようとする動きに対し、一貫して反対の意思を表明してきた。 それは、私たちが超国家主義と軍国主義に反対するからであり、 「紀元節」がこれらの鼓舞・浸透に多大な役割を果たした戦前・戦中の歴史的体験を風化させてはならないと信じているからである。 しかるに、政府はこのような声明や申し入れにもかかわらず、一九六六(昭和四十一)年、 戦前の「紀元節」と同じ二月十一日を「建国記念の日」に決定し、今日に至っている。
 私たちは、政府のこのような動きが、科学的で自由な歴史研究と、それを前提とすべき歴史教育を困難にすることを憂慮し、 これまで重ねて私たちの立場を表明してきた。
今日の状況を見ると、現行の中学校歴史教科書の中に、「神武東征」や「神武天皇即位」が歴史記述の流れの中に挿入されているものがあり、 行政などの力によりいくつかの自治体でも採択・使用されている。 また、一九九九(平成十一)年に成立した国旗国歌法は、国旗・国歌を定めただけのものであったにもかかわらず、 各地の教育委員会が学校式典での「国旗掲揚」・「国歌斉唱」を職務命令や懲戒処分等の手段をもって強制する動きが依然として続いている。
 さらに昨年十二月二十一日、戦没者遺族が「遺族の意思に反して靖国神社に親族を合祀され、故人をしのぶ権利を侵害された」として、 合祀名簿から親族の名前を削除することなどを求めた訴訟に対して、大阪高等裁判所は、靖国神社にも信教の自由が保障されているとして訴えを退けた。 しかし、旧厚生省は戦没者の情報を靖国神社に提供するなどの関与を行ったことが明らかになっており、 右の大阪高裁判決もこのような国の関与は憲法に規定されている政教分離の原則に違反すると指摘している。 政教分離の原則に違反して行われた靖国神社への合祀によって侵害されたのは、遺族の「しのぶ権利」、信教の自由である。 合祀は靖国神社の自律的活動として靖国神社における信教の自由も保障されるとするのは、 保護されるべき利益をまったく取り違えたものであり、今次の大阪高裁判決は不当な司法判断と言わなければならない。
 以上のように、日本国憲法の保障する個人の内心の自由が脅かされ、教育が国民の国家主義的動員に利用される懼れはいっそう強まっていることに対して、 私たちは深い憂慮を表明するものである。
私たちは、歴史研究・歴史教育に従事するものとして、歴史学はあくまで事実に基づいた歴史認識を深めることを目的とする学問であり、 歴史教育もその成果を前提として行われるべきであり、政治や行政の介入により歪められてはならないことを、あらためて強調するものである。

二〇一一(平成二三)年一月二二日


日本歴史学協会会長   高 埜 利 彦

同会学問思想の自由・建国記念の日問題
特別委員会 委員長   糟 谷 憲 一