建国記念の日に関する声明


  日本歴史学協会は、一九五二(昭和二十七)年一月二十五日、「紀元節復活に関する意見」を採択して以来、「紀元節」を復活しようとする動きに対し、一貫して反対の意思を表明してきた。それは、私たちが超国家主義と軍国主義に反対するからであり、「紀元節」がこれらの鼓舞・浸透に多大な役割を果たした戦前・戦中の歴史的体験を風化させてはならないと信じているからである。しかるに、政府はこのような声明や申し入れにもかかわらず、一九六六(昭和四十一)年、戦前の「紀元節」と同じ二月十一日を「建国記念の日」に決定し、今日に至っている。
  私たちは、政府のこのような動きが、科学的で自由な歴史研究と、それを前提とすべき歴史教育を困難にすることを憂慮し、これまで重ねて私たちの立場を表明してきた。
  今日の状況を見ると、現行の中学校社会科教科書の中に、「神武東征」や「神武天皇即位」が歴史叙述の流れの中に挿入されているものがあり、行政などの力によりいくつかの自治体でも採択・使用されている。また、各地の教育委員会が学校式典での「国旗掲揚」・「国歌斉唱」を職務命令や懲戒処分等の手段をもって強制する動きが依然としてみられる。
  「国歌斉唱」の強制に関しては、神奈川県教育委員会が卒業式等で君が代斉唱時に起立しなかった教職員の氏名を報告させていた行為について、思想信条に関する個人情報の収集にあたると判断し情報の保管と利用を止めるよう答申した神奈川県個人情報審査会に引き続き、神奈川県個人情報審議会が「不適当」とする答申を提出した。また、君が代斉唱時に起立しなかったことを理由として、定年を迎えた教員の再雇用を拒否した東京都教育委員会に対し、東京地方裁判所は「合理性や社会的相当性を欠く」として損害賠償を命じる判決を下した。このように、強制の問題性が公的機関によっても指摘されているにもかかわらず、神奈川県・東京都教育委員会は既定方針を是正する態度を示さず、起立しなかった教職員の氏名の収集・懲戒処分等を続けている。
  さらに、「国を愛する」ことを教育目標に掲げ、行政による教育への介入を容認する教育基本法「改正」が行われた。それに基づいて昨年三月に告示された小中学校の新学習指導要領では、道徳教育において学問思想の自由や真理探究の態度といった内容が削除される一方で、伝統と文化の継承・発展の名のもとに、「郷土愛」を育て「国を愛する心情」につなげることが謳われ、君が代の歌唱指導も強化するとされている。それに伴い、新しい教科書検定制度に、こうした内容の徹底を図る措置が盛り込まれた。このように、日本国憲法が保障する個人の内心の自由が脅かされ、教育が国民の国家主義的動員に利用される懼れはいっそう強まっている。
  私たちは、歴史研究・歴史教育に従事するものとして、歴史学はあくまで事実に基づいた歴史認識を深めることを目的とする学問であり、歴史教育もその成果を前提として行われるべきであり、政治や行政の介入により歪められてはならないことを、あらためて強調するものである。   

二〇〇九(平成二十一)年一月二十四日

日本歴史学協会
会 長  木 畑 洋 一 

日本歴史学協会
学問思想の自由・建国記念の日問題特別委員会
委員長  池  享